岐阜県道352大西瑞浪線2

 五月橋を渡った先にはとんでもない激坂が待っていた。
御覧の有り様である。百井峠並み…いやそれ以上の勾配
に獣道の極狭幅員、無論路面はダートである。崖の下に
はダム湖畔の淵が不気味な緑色をしておりここを通過す
る者が落ちてくるのを手ぐすねひいて待ち構えているよ
うである。更にこの激坂の途中には一本橋のセクション
まで用意されており、まさに見どころ満載のアトラクシ
ョンと化している。昨年夏に徒歩で訪れた時、この光景
に悶絶したのは言うまでもないが、ハンターと共にこの
アトラクションを目の前にして改めて体が震えてきた。

  しかしここで引き返す訳にはいかない。ここを登りきる為にこの半年間、
 周到に準備を重ねてきたのだ。既にハンターカブは生産中止になっている
 が、店によってはまだ逆輸入の新車が買える。その新車にはサブミッショ
 ンと呼ばれるものが装備されてるのだ。これはエンジンに付いているレバ
 ーをひねるだけで超ローギヤーになるという廃道探索にはうってつけの便
 利なものだ。私のハンターは20年以上前に国内で販売されたもので残念な
 がらサブミッションは搭載されていない。だが、これを前後スプロケット
 の歯数を変えることで克服した。今ならどんな坂でも登れるはずである。
 一気に登りきってやろうとアクセルを吹かして激坂に突撃開始!
  期待通りローギヤード化したハンターは面白いように坂を駆け上がる。
 一本橋もいとも簡単にクリアできた。しかしその直後のことである。


 一本橋を越えると勾配はより急になり左へカーブする。ここを曲がり 
切った先には物凄いガレ場が待ち構えていた。まさに泣きっ面に蜂とは
このことである。 勢いよく登ってきたハンターだが、道に岩盤が剥き出
している地点でエンジンを凄い勢いで唸らせながら進行が止まってしま
った。岩盤の段差は数十センチありその横には辛うじてタイヤ一本分の
ラインがあった。が、このラインも僅かに段差となっておりここに前輪
がひっかかってしまってストップしたのだ。 すぐにハンターを降りて押
しに入るがここはとんでもない激坂の途中である。アクセル全開で押し
てもウンともスンとも動かない。それでもブレーキをちょっとでも弱め
ると容赦なくズルズルと後ろへ滑り落ちていく。少し下がって勢いをつ
けて突っ込んでみたが全く無駄であった。何度かリトライしているうち
に全身汗びっしょりになってしまった。


 後ろを振り返ると今登って来たカーブと一本橋が見えた。その先の崖下にはダム湖畔の淵が私とハン
ターが滑り落ちてくるのを今や遅しと待ち構えているようだ。後ろに滑らすまいと踏ん張っているだけ
でもどんどん体力を消耗する。とりあえずこのままバックして平坦なところで体勢を整えようにも一本
橋を越えて五月橋のたもとまで戻らねばならない。バックでこの激坂を下りつつカーブを曲がって一本
橋を越えるなんて無茶な話である。この時点でこの廃道に突入したことを後悔し始めた。私の技量と準
備が完全に不足していたのだ。そんなことで突破できるほどこの廃道は甘くは無かったのだと。しかし
この道の狭さと旧勾配、おまけにガレた状況ではUターンなどできるはずも無い。戻るにはバックしか
ないのだが前述の状況であるので撤退しようにも危険が大きすぎるのだ。先へ進むも後ろへ戻るも困難
極まり無い状況に目眩を覚え、そろそろ踏ん張りもきかなくなってきた。このままでは力尽きてしまう。


  思いきってハンターを山側へ倒して体力回復と対策を
 練ることにした。現時点ではバックして戻るより先へ進
 んだ方がリスクは少なそうである。しかしこの岩盤を越
 えた先に決定的に進めない箇所があればゲームオーバー
 である。それをこの目で確かめるべく徒歩にて偵察する
 こととした。それにしても本当に凄い道である。しかし
 ながら自ずから望んでここまでやって来たのだ。これこ
 そが廃道の姿であり文句など言えようもない。偵察の結
 果、ヤバそうなところは二箇所あったが、その二つを越
 えることができれば勾配も無くなり路面もマシになって
 るのが確認できた。そうなれば先へ進むしかない。


 先程の地点に戻り、そこいらに転がっている石をかき集めてタイヤ一
本分のラインに敷き詰めて整地する。そして倒したままだったハンター
を起こしてエンジンを始動。しかし全然かからない。倒した時にガソリ
ンコックをオフにするのを忘れていたのだ。これは万死に値した。結局
カブったハンターのエンジンを再始動するのに更に15分の時間と体力を
ロスすることとなった。突貫工事で整地した甲斐もあってなんとか"押し
"で最初の難関を越えることに成功した。
 次に待っていたのは岩盤と地面が抉れてしまった箇所である。岩盤か、
抉れた地面かどちらのラインを選択しようか迷ったが後者を行くことに
した。ここは後輪がスタックして困難を極めた。"押し"でも無理だと諦
めて右側にハンターを倒し、後ろから押し上げ、少し上がったら、ハン
ターの前に回りこんで引っ張り上げる…これを繰り返して何とかクリア。


  そしていよいよボスキャラ級の難所の登場である。今
 度は岩盤と巨大な落石のバリューセットである。この落
 石がまた厄介な場所に横たわっているのだ。手前が急な
 斜面になっており、その斜面を登ったところにまさに通
 せんぼするかのように落ちている。崖側には杉がそびえ
 立ち、山側には岩盤が貼り付いており、エスケープする
 道は全く無い。辛うじて岩盤と落石の間にタイヤ一本分
 位のV字になってる隙間があるので、ここを通るしか他
 無さそうである。とにかく思いきり突っ込んでなんとか
 前輪だけでも落石の向こうに上げてしまいたい。

 アクセル全開で突撃すると「ガガゴゴゴッ」と物凄い 
衝撃と鈍い音が響き渡った。しかし思いきり突っ込んだ
甲斐もあって思惑通り前輪を斜面の上、落石の向こうに
上げることができた。エンジンガードが完全に接地して
亀の子状態になってしまったが、おかげで修羅場の最中
を画像に収めることができた。エンジンのサイドや、ス
テップ、チェンジペダルの損傷が気になったが、大丈夫
そうである。ともかくここまで上がってしまえばこっち
のものである。ハンターを後ろから押し上げて、このボ
スキャラを通過することができた。


  このボスキャラ級セクションであるが、事前調査では
 今回の探索で一番困難を極めるであろうと予測していた
 が、時間も体力も最小限のロスで通過することができた。
 これも先の二つの難関で四苦八苦したおかげで、僅かな
 時間のうちにさらなる廃道走行のスキルが身についたか
 らだと思われる。やはり人間窮地に追い込まれると実力
 以上の力を発揮できるものである。とにもかくにも悪夢
 のような激坂ガレガレセクションと、岩盤巨大落石ツー
 トップセクションを越えることができて一安心である。
 岐阜県道352大西瑞浪線3へ続く

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