最後のホハレ峠〜・王子製紙作業道跡・〜2

 新ホハレ峠から先の路面は崩落することなくしっか 
りと残っていた。ただ山側から覆いかぶさるように生
えている樹木や道の真ん中の薮が厄介で普通に真直ぐ
歩くことを許してはくれない。日照時間の少ない尾根
の斜面に道が回りこむと植生の生い茂りもおとなしく
なり障害物も少なくなる。ただこのような恵まれた路
面箇所は本当に極々一部であり、草木を手足でかき分
け、時にはそれらを避ける為に道の山側崖側へとエス
ケープしながらの前進となる。まさに全身を使っての
前進であるが、その労とは裏腹になかなか距離が稼げ
なくGPSの通算移動距離を見る度途方にくれる始末だ。


基本的にはこのような感じの道が続く
 
このように歩けるのは稀


芸術的なカーブを描き等間隔で並ぶ植生
 
道の真ん中に生えたが暴風により根こそぎ倒れた大木


道が谷と交差する地点には水場もある
 
斜面より道方向に生えている樹木。豪快な障害物だ

  しばらくは植生が障害物となっているものの道はし
 っかりと残っていた。しかし一転して山側からの大規
 模な土砂崩れにより道が完全に飲み込まれてザレ場と
 なっている。ザレ斜面を見ると獣の足跡が先へ続いて
 いた。おそらくはシカかカモシカといったところか。
 見た目はズルズルだが、意外とよく踏み締められてい
 るようだ。ここを慎重にトラバースして前進する。
 草木をかき分けたり跨いだりして歩かなくていいので
 かなり楽である。しかしこのザレ場の向こうには再び
 道が現れ先へと続いている。無論のこと斜面から覆い
 かぶさるようににょきにょき生える樹木と薮付きで。


再び道の崩落箇所が見受けられるようになった
 
薮の密度に萎え、尾根の頂上を囘りこみ向こう側に行く

 1036時。出発してから実に一時間半、距離にして 
1.6km歩いたところで小休止することにした。尾根の
南斜面から北斜面へと道が回り込んでちょっとした広
場になっているところの薮の密度が尋常で無く、これ
を避ける為にすぐ上にあった尾根の頂上に登り向こう
側にある道に降りようとした。この尾根の頂上が景色 
も良く休憩するのに程良かったからだ。遥か向こうに
黒谷が見える。門入はまだまだ先である。
 歩いている時は薮を漕ぎながらなので汗だくとまで
はいかないまでも結構暑い。だが、しばらく立ち止ま
ってると途端に寒くなる。風が冷たいからだ。


尾根を回りこんだ先の道は見事なまでに無くなっている
 
この斜面をやむなくトラバース

  しばし休憩の後、出発した我々を待ち受けていたの
 は猛烈な薮であった。山側斜面から真横に向かって生
 える樹木、道の真ん中に鎮座する樹木、それに加えて
 鈴竹が密生しているのだ。これにはさすがに閉口した。
 どう進もうか立ち止まって考えている私を傍目にグロ
 メク氏は薮の中へと突進して行く。5mも先に進めば
 姿が確認できなくなるくらいの薮の濃さだ。後に続い
 て薮の海へと突入するがこの鈴竹が厄介なのである。
 なぎ倒しながら前進するのだが、しなって戻ってくる
 鈴竹が身体のあちこちにビシバシとヒットする。挙げ
 句眼にヒットする始末だ。これではゴーグルが必要だ。


この薮の海が我々の体力そして時間をじわじわ消耗させていく
 
完全に戦意喪失する私

 猛烈な薮の海をなんとか越えることができたが肉体精神ともにズタボロ 
であった。この薮漕ぎ区間で今度は折り畳み式鋸を覆っていた巾着袋を持
っていかれた。やはりというかザックにあれこれ外付けしているのは薮漕
ぎには全く適さないと思い知らされた。探索一週間程前に藪漕ぎにはシン
プルなアタックザックが最適だとヤブ山ヤブ漕ぎ愛好家の方々のwebサイ
トで情報を得たのだが、費用の大半をGPSやシューズに投じてしまってい
たので後の祭だ。それに比べてグロメク氏はかなり薮漕ぎに特化した装備
類だ。デカいがシンプルなアタックザックに長靴である。長靴は蒸れない
か心配だったが薮漕ぎでは歩行速度が上がらないので問題無いとのことだ。
 薮の海の先は再びごっそりと崩落しており道筋が確認できない。しかし
グロメク氏が勇敢にも木に登ってルートファインディングしてくれたのだ。


木に登りルートファインディングするグロメク氏
 
道筋は我々がいた斜面より下方に存在していた

  道がほぼ完全に崩落した斜面を進んで行くと、沢の
 流れる谷が現れた。この谷を詰めて沢を渡り向こうの
 尾根に道は続いているのだが、ここで驚くべきものを
 発見した。道の下の法面に石組みが築かれていたのだ。
 苔むしており更にその上に草が覆っているが確かにそ
 れは存在していたのだ。新ホハレ峠からここまでの道
 中、道路遺構はおろか空き缶などのゴミ、足跡さえも
 無かったのだが突然現れた人工物になぜか安堵するの
 であった。これにすっかり気分を良くしてここでコー
 ヒータイムにすることにした。1148時。出発地点か
 ら2.5km進んだ地点である。



石組みの上に立つグロメク氏
 
苔むし草が覆っており、自然に帰化している

 さて、この場所が今回の探索で安堵を感じることができた最後の場所であったことをまだ二人の廃道
探索家は知る由も無かった。この先いよいよ新ホハレ峠道が我々に牙を剥くのである。

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