八十谷林道

 初めて矢ノ川峠を目指すべく尾鷲を訪れたのは二年前のことである。あの時は矢ノ川隧道を抜けた先
の分岐をこの八十谷林道へと進路を取り、展望が開けた所を矢ノ川峠だと勘違いしていたのだ。
帰ってからすぐにこの誤りに気がつき絶望に打ちひしがれたのは言うまでもないが、あの時ニ台のセダ
ン車がこの八十谷林道を三木里へ向けて走って行くのを目撃している。矢ノ川峠旧道の尾鷲側R42現道
分岐より矢ノ川隧道までの路面状況があまりにヒドく(ウブな当時はそう感じた)、峠にある登山口への
アクセス、途中に存在する電波塔の管理にやって来る車両は三木里よりこの八十谷林道を走って来てい
るのではないかとずっと気になっていたのだ。それを確かめる時が来たのである。

 三木里を八十川沿いに谷を登り矢ノ川隧道を目指す。
最初は浮き砂利と枯葉が堆積した舗装路であったが、
ある程度標高が上がったところでダートとなる。車の
往来も舗装が切れるところまでは頻繁にあるようだ。
山菜取りと思しき入山者もチラホラ見受けられる。
 ダート路面もよく踏み固められて走り易くこの調子
だったら矢ノ川峠旧道と八十川林道の分岐点まであっ
と言う間だと思った矢先、まず倒木が目立つようにな
る。そして次に四輪車の轍が消え去り、バイクの轍も
足跡も無くなり挙げ句、最近誰かが通行した痕跡が全
く確認できなくなってしまった。



ダートをしばらく走ると倒木が目立つようになる
 
やがて路面が苔蒸し誰かが通った痕跡が確認できなくなる

  ひょっとしてこの八十谷林道は廃道化しているので
 はないか?と、疑問を抱くと同時に決定的な道路決壊
 箇所に出くわした。道路幅の実に2/3以上がごっそり
 と抉られているのである。矢ノ川峠までの電波塔等の
 管理に八十谷林道が使われているのではという憶測は
 敢え無く一瞬にして崩れ去ってしまった。
  しかしながらバイクでのアクセスはまだなんとかな
 りそうである。ただこの決壊箇所の抉られ方がえげつ
 なく残った1/3の道幅も軽量ハンターと言えど重みで
 崩れてしまいそうなので、徒歩でこの先の道路状況を
 見極めてからハンターでの前進を考えることにする。



徒歩でも恐いくらい今にも崩れそうである
 
決壊箇所の先、どうも様子が怪しい

 道路決壊箇所を歩いて越えた先に続いていた光景は 
完膚無きまでに荒れ果てた廃道であった。裏山死線
彷佛させるガレ場に倒木のラッシュである。ただし勾
配がさほどでもないので倒木さえなんとかすればハン
ターでも不可能ではない…とこの時点では思っていた。
しかし遠く離れたこの尾鷲の地でしかも荷物満載でア
タックする気には到底なれなかった。
今回はあくまで八十谷林道の探索である。このまま確
実な徒歩でこの先の道路状況を見ながら矢ノ川峠旧道
分岐点を目指すこととした。



洗堀と段差。ハンターではキツいか?
 
落石箇所。谷側にタイヤ2本分だけのスペースがある

  大ガレ、洗堀、落石によるロックセクション…。
 廃道というよりはアタックコースの様相である。そし
 て次に目に飛び込んできたのはこれでもかという位の
 超巨大落石である。落石というよりは山肌の岩がその
 まま崩れてきた感じだ。これではロープで引き上げな
 い限りバイクによる通過はまず不可能である。トライ
 アル車でA級テクがあれば越えられるのだろうが、わ
 ざわざこのようなマイナー林道にトラ車でやってきて
 挑戦する御仁がいるとは思えない。
  当初の目論見とは大きくかけ離れ八十谷林道は車両
 による通行の叶わない廃道だったのである。

 それにしても歩けど歩けどなかなか目的地の矢ノ川 
旧道との分岐点に辿り着かない。振り返ると谷の向こ
う側に今まで歩いてきた道筋が見えた。結構な距離を
歩いてきている。いつもの如くライディングウェアに
ライディングブーツなので負担も大きい。最初はヘル
メットもグローブも着けたままだったが途中で暑くな
りウェア共々脱ぎ置いてきたのである。ちょっと先を
見るつもりがここまで来てしまった。ここでハンター
のエンジンをかけっ放しにしてきたことに気がつく。
長い時間アイドリングさせておくのはエンジンにあま
り良くなさそうなので急がねばならない。



遠く海が望める高さまで登ってきた
 
2年前に矢ノ川峠と勘違いした展望の開けた場所

  標高が上がってきたところで遠くに海が望めるよう
 になった。海が見えるようになったら分岐地点は近い
 はずだ…と思ってからが結構長かった。
  そして賀田湾が見下ろせる展望の開けた場所に辿り
 着いた。ここははっきりと憶えている。2年前に矢ノ
 川峠と勘違いした景色は良いが忌々しい場所なのだ。
 ここから矢ノ川峠旧道分岐点まではほんのすぐそこで
 ある。分岐地点には林道八十谷線と書かれた標識が打
 ちつけられている。展望も良く走り甲斐のある林道で
 あったはずなのに廃道化したのが残念でならない。

 こちらも2年ぶりとなる矢ノ川隧道である。ハンタ 
ーを置いてきた道路決壊場所から40分程歩いてようや
く拝むことができた。しかしながらハンターのエンジ
ンをかけっ放しでここまでやって来たのであまり懐か
しんでいる暇はない 。休憩も程々にしてすぐさま戻る
ことにした。まったく、慌ただしい限りである。
 それにしても2年前にここから八十谷林道へ走り去
った2台のセダン車はなんだったのであろうか。あの
時に通り抜けができたとは俄に信じられない。真相は
霧の中である。ちなみに決壊箇所に戻るとハンターは
健気にアイドリングを続けていたのであった。  

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