軽岡峠隧道2

 山の斜面から道に向かって横方向にニョキニョキ生えている極悪トラッ 
プ地帯の先を右に曲がると軽岡峠隧道が姿を現した。パソコンの画面上で
みたそれとは迫力、重量感、威圧感が全然違う。しばらくそのたたずまい
に見とれてしまった。月並みではあるが感無量である。これまでの行程は
決して楽ではなかったが、一瞬にして労が報われる。 先のカーブを曲がっ
てから隧道までは数十メートルの直線になっており、木漏れ日が眩しく辺
りには羽虫が舞っていた。なんとも幻想的というか不思議な空間である。
 そして隧道に近づいてみる。

  隧道は前面のコンクリート部分を残して激しく崩れ
 ている。上部にはこの隧道の特徴とも言える木枠がむ
 き出している。木筋コンクリートのトンネルである。
 コンクリートには苔が蒸しており、なんとも趣のある
 色合いを出している。トンネル内部は土砂で塞がって
 いるが、右上にわずかに空間が残っていた。そこから
 奥を覗いてみたが真っ暗で何も見えない。通り抜けは
 もちろん不可能である。 朝に一雨降ったのかこの付近
 一帯はいやにジメジメしており、付近の地質はかなり
 もろそうである。こういった条件が重なって隧道は崩
 壊したのであろうか。


隧道上部に露出した木枠
 
隧道内部を覗くが真っ暗である

 さて、目的の隧道到達は果たすことができた。しか 
しながら向こう側の坑口も観たくなるのが廃道探索家
の悲しい性である。隧道のすぐ上に峰が見えているの
でなんとかなりそうなのである。絹路氏に「向こう側
にも行ってみましょうか? 」と言うと即座に了承して
くださり、すぐさま斜面をよじ登って行かれた。私も
遅れまいと後を追うがなんとももろい地質の斜面であ
る。よじ登ろうにもズルズルと崩れてまるで蟻地獄の
巣である。斜面にわずかに生えている草木の枝や根っ
こなどに捕まりながらなんとかよじ登ることができた。


  蟻地獄の巣の斜面を越えると意外とすんなり峰の頂
 上に至ることができた。しかしながら峰から反対側の
 坑口までの下りには猛烈な笹薮が待ち受けていた。掻
 き分けて進もうにも笹薮の密度が濃すぎて人が通るス
 ペースを確保するのに実に難儀なのである。ナタで刈
 り払おうとするが既に手足に笹の枝が絡まっており、
 振りかざすのもままならない。結局ナタを使うのは諦
 めることにして根気をつめて笹薮を倒したり折り畳ん
 だりしながらすり抜けることにした。笹の枝が全身に
 絡まり何度身動きが取れなくなったことか。

 笹薮&激坂の極悪区間をなんとか下りきると、なに 
やらコンクリート製の人工建造物が目に飛び込んでき
た。どうやら向こう側の隧道坑口のポータルのようだ。
それにしてもここへ至るまでの笹薮のせいですっかり
気力も萎えてしまった。だが、しかしである。この極
悪笹薮区間を単身でしかも自転車を担いで越えた猛者
がいるというから驚きである。まさかこの日の探索の
一週間後にその猛者と会うことができようとは、この
時は知る由もなかった。言わずと知れた旧道倶楽部部
長兼日本の廃道編集長nagajis氏その人である。


  そして向こう側の坑口…軽岡峠隧道の三尾河側に降り立つこと
 ができた。こちら側は六厩側のように酷くは崩壊はしていないが
 内部は土砂で埋まっている。 自然に帰化せんとしているその姿に
 やはり見とれてしまう。これを見るが為に草木を掻き分け、時に
 は倒木を乗り越え、時には崖をよじ登って廃道探索家は今日も前
 進するのである。さて帰りは先程の笹薮と激坂を登って行かなけ
 ればならない。下りであれだけ難儀したのだ。荘川の山中に二人
 の廃道探索家の悶絶する声が響きわたる。         

 追伸:今回探索に同行していただいた絹路氏に多々感謝である。
 

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