R418通行困難・不能区間(本編)

 再びここへやってきたのは前回の探索から4ヶ月後…季節は 
夏真っ盛りである。この時期気をつけなければならないのは、
やはり行く手を阻む草木の存在であろう。聞くところによると
ジャングル地帯と化してるらしい。これに備えて今回は鉈(ナ
タ)を装備してこの酷道に挑むことにした。蜂などの毒虫にも
充分注意しなければならない。炎天下の中、長時間道無き道を
進むことが予想される為、熱中症にならぬ様、水分の補給など
も重要になってくる。
 ここが以前の崩落現場である。見事なまでに復旧されており、
現代の土木技術にただただ感嘆するばかりである。


  今回はR418と県道352大西瑞浪線の分岐地点まで軽四輪に
 乗る友人と一緒にやってきた。この県道352も日本屈指の廃道
 としてそのスジではあまりにも有名である。友人と徒歩にて視
 察してきたが、ハンターカブで行くにはかなりのリスクを負う
 ことになると解るのは容易かった。おそらくこれから挑むR418
 ジャングル地帯の比ではないだろう。いずれこの戦慄の廃道に
 挑む時が来るのであろうか。
  とにもかくにも今日の目的はR418のジャングル地帯を走破
 することである。友人と別れて単独草木が生い茂る緑の海へと
 突入する。時間は正午直前であった。


 名場居川の橋を渡り、最後通告ととれる通行止の看 
板を越えると道が無くなり密林地帯が待ち受けていた。
道が無いと言うには語弊がある…正確にはかろうじて
歩道が先へ続いてるといった感じである。ここは本当
に日本なのか?という景色であるが、車道が切れてか
ら間もなくまだまだ精神的な余裕はあった。それに歩
道程度ではあるが道が続いてるのが認識できるからだ。
 そういえばここへ辿り着く直前…車道が無くなる手
前で一台の乗用車(走り屋っぽいクルマに茶髪のにー
ちゃん搭乗)とすれ違った。彼も私と同じ所謂"好きモ
ノ"なのだろうか?普通こういう道では人と会うことは
ないものなので、それが心強く感じたのかもしれない。

  再び車道が現れたと思ったら巨大な落石である。通
 称巨大隕石と呼ばれるコイツが四輪車での走行を完全
 に不能にした。広角レンズで撮影したので今イチ迫力
 に欠けるがバイク一台なんとか通り抜けできる幅があ
 る。そういえば某掲示板でこの巨大隕石を撤去しよう
 という試みがあったらしいが、私が来た時にもこうし
 て存在していたということはその試みははかなくも叶
 わなかったようである。

 ダムから12.0km地点という看板がある。さすがに歩道すら認識できな 
くなってきた。この看板の向こうは草木が生い茂っているが、言わずもが
な崖である。充分な幅があると思って右側の茂みに足を踏み入れたら最後、
木曽川に転落である。とにかくキープレフトを遵守して慎重に進まなけれ
ばならない。既に先程までの精神的な余裕などは無くなっている。月並み
ではあるが大変なところに来てしまったなどと思うようになる。
 が、崖下の木曽川からはモーターボートのエンジン音がひっきり無しに
聞こえてくるのだ。恐らく優雅なお金持ちが集まって水上バイクで戯れて
いるのであろう。まったくこっちは薮にまみれて死ぬ思いで道無き道を進
んでいるのに、同じバイクでも偉い違いである。と、貧乏人根性丸出しな
のだが、そんなことよりも目の前の道がこんななので僻んでいる場合では
ないのだ。とにかく誤って崖に転落しないように慎重に前進するよう集中
しなければ命が危ない。余計な邪念が死を招く。そう自分に言い聞かせて
ハンターカブを走らせる。
 しかし進めど進めど草の海は終わらない。むしろ状態は悪くなる一方で
ある。さすがにもうナイーブである。雑草の猛威は容赦なく私とハンター
の背丈を上回り完全に飲み込まれてしまった。


  この先本当に通り抜けられるのだろうか?と疑問を
  抱いた矢先にハンターカブのエンジンが突然停止!
 ずっとローギヤで走り続けてきたのでエンジンが焼け
 てしまったか?と焦りつつ再始動を試みるがウンとも
 スンとも言わない。こんなところで故障なんて万死に
 値する。とにかく落ち着かなければならない。慌てて
 いては問題が解決するどころか悪化させることにもな
 りかねない。
  よくよく見るとキーがOFFになっている。山側から
 倒れかかった草木がバイクに絡まってキーをOFFにし、
 エンジンを停止させたのである。 恐るべし酷道418。
 


 絡みついた草木は鉈で排除してなんとか難所を通り抜けるこ 
とができた。やはり鉈を持ってきたのは極めて賢明な選択だっ
たと言える。このずっと前、まだ車道があるところでも道に横
たわってた木の枝を排除するのにも用いた。今回の旅をする前
にホームセンターにて本当にこれが役に立つことが果たしてあ
るものなのかと陳列してあった鉈を手にして散々悩んだが、少
ない資金から投資したのは大正解であった。
 ちなみにここは道ではなく橋の上である。橋の上だけ自然の
猛威、草木の侵攻から免れているのである。


  やっとの思いで草の海を抜けだすと車道が復活していた。
 見ればダムから14.0kmである。しかしまだ油断はできない。
 この先また熱帯雨林のジャングル、草の海が手ぐすねひいて
 待っているかもしれない。まだ先は長いであろう。ひと休み
 することにする。
  ここまで走ってきたが、道路状況はとにかく薮が行く手を
 阻む。しかし薮に埋もれた路面自体はもともと舗装されてた
 からかガレてもいなくどちらかと言うと走り易い方である。
 ただまれに握り拳大以上の石が隠れてるので、油断して乗り
 上げると最悪崖の方へ弾かれることになる。 


  それから間もなく未舗装(正確には舗装路が剥がれたり砂利 
や落ち葉が堆積してる)が終わり舗装路が現れた。
ジャングル地帯を脱出できた!走破することができた!
安堵感と達成感が溢れ出してくる。遂にこのR418魔の通行困
難・不能区間を通り抜けることができたのである。
 頭の中では水曜スペシャル川口浩探検隊のエンディングテー
マであるロッキーのテーマが流れていた。カーンカーンカーンカーンカー--ンと
あの鐘の音が響いてたのである。しばしこの余韻に浸り、渇い
た喉を潤しゆっくり休み、この先にある笠木ダムをバックに記
念写真を撮ろうと鼻歌まじりにハンターを走らせる。が…

  一瞬のうちに安堵感も達成感も消え失せた。もはや決
 定的とも思える崖崩れである。 笠木ダムまではもうすぐ
 そこだと言うのに…絶望感にうちひしがれる。
 引き返そう…、と考えたが今まで通って来たあの凶暴な
 までの密林地帯のことを考えると全身の力が抜けてきた。
  なんとかここを越えられないものか?進むも地獄、戻
 るも地獄とはまさにこのことだがやはり人間前向きに行
 きたいものである。積載した荷物を全て降ろし、バイク
 を降りてローギヤ全開で押して登ることにした。
 登る途中、誤って右側にハンターを倒そうものならその
 ま木曽川へ滑り落ちるのは間違い無い。 果たして!?

 一気に登りきったが、頂上で見事なまでの亀の子状態になり 
立ち往生した(なんせ手を離しても立ち続けていた)。ここか
らエンジンガード下の石や砂利を掘り除いてなんとか向こう側
に下りることができた。物凄い重作業であったがとにもかくに
も危機的状況を乗り越えることはできた。が、こんなことがあ
るともう安心なんかしていられない。この先、完膚無きまでに
崩れた箇所があれば、先程みたく亀の子状態になって崩落箇所
を越え、魔の密林地帯を抜けて引き返さなきゃならないのだ。
祈る思いで先を進むと通行止のゲートと看板が見えてきた。先
程の崖崩れを促すものである。

  それから間もなく、笠木ダムに到着することができた。
 もはや安堵感も達成感も無い。水曜スペシャル川口浩探検隊の
 エンディングテーマであるロッキーのテーマのあの鐘の音も聞
 こえてはこない。 そこにあるのは脱力感。やれやれ…なんとか
 無事に通り抜けることができた。このヤレヤレのみである。
  噂に違わぬ、まさに悪夢のような酷道418通行不能区間では
 あったが、いずれこの道も新しく造られるダムによって沈む運
 命にある。それを思うと無性に寂しくもなる。
 「アイシャルリターン」…私はこの道が水に沈む前に再び帰っ
 てくることを誓って、酷道マニアの聖地を後にした。   


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