矢ノ川峠〜車両では二度と越えられない旧国道の峠道〜

 矢ノ川峠(やのこと読む)は紀伊半島の幹線道路の旧道にあ 
る峠でその筋の方にはこれまた有名な峠でもある。
 平成16年10月に一泊二日で紀伊半島をツーリングした折に
探索することができた。いや、正確には矢ノ川峠へ行きたいが
為に紀伊半島ツーリングを計画したのである。実は同年5月に
も矢ノ川峠を目指したのだが、とんだ勘違いで全く別のところ
を峠だと思い踏破した気でいたのだ。 この誤りに気づいた時の
落胆ぶりといったら文面に表せるものではない。それ故この峠
に懸ける思いは並々ならぬものがあったのだ。
 ハイアベレージの幹線国道に何の標識もなくこのような分岐
がある。ここが矢ノ川峠へと続く旧道の入口である。

  分岐からすぐにこのようなガレ気味路面である。今年の大雨、台風で道路
 自体が川となり洗い流されたという感じである。フルサイズのオフロードバ
 イクならこの程度の路面スイスイ進めるのだろうが、ハンターカブではやや
 辛い。岩盤や石に乗り上げる度に「ガンッ、ゴンッ」と精神衛生上よろしく
 ない音がする。高く盛り上がった岩盤箇所では亀の子状態に陥ってしまい降
 車を余儀無くされ、押しに入らなければならない。
  上がりはまだいいのだが、下りのガレ路面が私は大の苦手である。今回も
 帰りにこの画像箇所で石に乗り上げた途端に横へ弾かれてすっ転んでしまっ
 た。ニーグリップが甘いのか…まだまだ修行が足りないようである。ちなみ
 にバイクも身体も全然平気であった。ハンターは倒れながらもエンジンの鼓
 動を続けていた。やはり頼もしいヤツである。


 間もなくすると素堀りのトンネルが現れる。この矢ノ川峠に 
至る旧道にはこのような素堀りのトンネルが3つほど続く。素
堀りではあるが結構広く、圧迫感などは感じない。むしろ爽快
である。ただしトンネル内は浸水している所もあるので注意が
必要である。勢い余って突っ込むと水しぶきでバイクはおろか
全身びしょ濡れである。
 路面状況は相変わらず悪く、先の大雨で細かい砂や石は流さ
れ大きめの石がゴロゴロ残っており、干上がった谷を進むとい
った感じなのである。ところどころ辛うじてコンクリート舗装
が残ってる箇所もあるが、ほとんどが剥がされてしまいガレ路
面と化している。

  トンネル群の締めは矢ノ川隧道である。 この色褪せ具合とい
 い私好みであるのだが、この道が旧道となって随分と長い年月
 が経ったことが伺える。
  矢ノ川隧道を抜けると道が二手に別れている。左へ行くのが
 峠に至る旧道で、右が三木里へ抜ける八十川林道である。
 以前に来た時は誤って右に進路をとってしまい、しばらく行っ
 た先の展望の良いところを矢ノ川峠と勘違いしてしまったのだ。
 その時々のカンも大事だが、やはりよく地図を見ておくことは
 限られた時間を有効に使う為には必要なことなのである。
 左へ進路をとり、ちょうど矢ノ川隧道の真上をぐるりと登って
 行く。ここから峠までの路面状態はかなりマシになっていた。


 矢ノ川隧道から峠までは路面の状態が幾らか回復してい 
たせいかあっと言う間に感じられた。途中、アスファルト
舗装になり展望が開けて広場になってる箇所があり峠と間
違えた。アスファルト舗装は峠に至る旧道から脇道に逸れ、
その先には電波塔が立っていた。どうやらこの電波塔を定
期的にメンテナンスする為この旧道も最低限保守されてい
るようである。そういえば八十川林道との分岐地点から路
面がマシになっているのを考えると電波塔管理の車両は三
木里からやってくるのではと思う。
 なにはともあれ遂に憧れの矢ノ川峠に立つことができた。
右の画像が正真正銘の矢ノ川峠からの展望である。

  峠から今来た道を振り返る。轍以外…法面までも草や苔に覆
 われている。峠はちょっとした広場になっており石碑も建てら
 れていた。なんでもかつてはここの広場に峠茶屋があったらし
 い。石碑のすぐ横に登山道の入口があり、私が訪れた時にも登
 山客のものと思われる車が2台停まっていた。
  この峠を更に先に行けば熊野市へ抜けられるのだが、そうは
 問屋が卸さない。この先橋が決壊し、この旧道は二度と車両で
 越えることは不可能となってしまったと聞いている。
  峠から熊野市側を見ると惨々たる状況であったが、決壊現場
 をこの目で確かめることにした。自宅へ帰る時間も気にはなっ
 たがせっかくここまでやって来たのだ。後悔はしたくない。

 しかしその目論みはすぐさま儚くも砕け散ることになる。御 
覧の通り大量の落石が行く手を阻んでいる。ここへ来るまでも
似たような箇所があったのだがそこは何とか気合いで押して越
えられた。が、ここの落石現場はちょっと話が違う。落石が途
切れている右側の崖下はほぼ垂直といっていい深い谷なのであ
る。道路上の落石を除けようとしても山側から次々にゴロゴロ
と転がって来る。"押し"で越えられなくもない高さではあるの
だが少しでも右側へズルっと滑れば落石共々深い谷へまっ逆さ
まである。散々悩んだが断腸の思いでハンターでの進行はここ
で諦めることにした。ここから先は徒歩で進行したが、その判
断は決して誤りではなかった。この先どうみても絶対越えられ
そうにない決定的な落石、道路決壊箇所が2つ程あったのだ。


  徒歩で歩きだして15分程経ってから携帯電話をバイ
 クに置き忘れたことに気がついた。1眼レフカメラのフ
 ィルムも残すところあと1枚であった。ハンターでの進
 行を諦めた落石現場から橋決壊現場までの道路状態を記
 録する手立てがない。仕方なく橋決壊現場へ到達した証
 拠写真を収めることにした。この橋決壊現場も決定的で
 はあるのだが、ここに至るまでの落石&道路決壊現場は
 徒歩で越えるにも命がけであった。道が完全に木に覆わ
 れて先が見えない箇所もあり、いつ凶暴な野生動物が襲
 ってくるやもしれないと怯えながらポリス笛を吹き続け
 ながら歩き、なんとかここまで辿り着いたのである。


 峠から橋決壊現場まで徒歩で大体30〜40分程度だったと思 
われる。 それにしてもこの区間の荒れっぷりを記録できなかっ
たことが大変悔やまれる。今回の秘密兵器ポリス笛の活躍で幸
いにも遭遇した野生生物は雉(ヤマドリ?)のみであった。
更に熊野市側からのアプローチを試みたかったが今回は残念な
がら時間切れである。八十川林道で三木里へも通り抜けられる
かどうかも未確認である。次回調査の課題を多く残すことにな
った矢ノ川峠探索であった。それにしても矢ノ川峠からの展望
は本当に素晴しい。山々の向こうに熊野灘を望むことができ、
爽快そのものである。国道分岐から隧道までのガレ気味路面が
泣き所だが、訪れる価値は十分あると思う峠である。   


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