戸谷隧道〜地図から消えた県道とトンネル〜

 以前から北陸地方に廃道を行ったところにとんでもなく怖いトンネルがあると噂に聞いていた。私の
自宅からもギリギリ日帰り圏内にあるのでいずれは行くことになるだろうと思っていた。
 残暑が厳しい平成16年9月…今年の日本列島は相次ぐ大雨や台風で各地で甚大な被害を被っている。
特に今年は台風が異常なペースで上陸している。それも週一回、しかも週末である。私のような日々会
社員をして生きる糧を得ている日曜廃道探索家にはなんとも恨めしい話である。そのうちあの北陸にあ
る怖いトンネルも決定的な土砂崩れなどで二度と行くことができなくなるのでは?と思い、直ちに現地
へ赴くことにした。

 いきなりだがこれが戸谷隧道である。ここまで辿り 
着くのに結構骨が折れたが、廃道探索をする時は景色
を見たり走るのに夢中で、いちいちバイクを降りて写
真を撮るのがどうにもおっくうなのである。 そして自
宅へ帰ってレポートを作成する時にもっと撮っておけ
ばよかったなどといつも後悔してるのである。
 今回は小松市街側からのアプローチとなった。県道
標識を頼りにすれば辿り着くはずなのだが、途中、標
識はいつの間にか無くなり舗装もきれる。そして作業
林道みたいな様相になり道を間違えたかと思い始める。

  そろそろ引き返そうかと思った矢先に突然何か人工物が目に飛び
 込んできた。高さ1.7m幅0.8mの標識である。思わず「うおっ!」
 と声を上げる。そしてすぐにトンネルが姿を現した。ここまで辿っ
 て来た道で間違いがなかったというのが何より驚いた。
 次に驚いたのがやはりその小ささであろうか。車両用ではなく歩行
 者用サイズである。 が、この小ささが幸いしたのか全然怖いとか、
 気味が悪いとかは感じなかった。トンネルの入口近くにお地蔵さん
 がいたので手をあわせて、ここを通られることに感謝しつつ今後の
 探索の安全をお祈りしてトンネル内への進入を試みる。
  ハンターカブは6V電装で闇にはからきしダメである。無論、戸谷
 隧道に照明などという気のきいたものはない。決して大袈裟ではな
 く懐中電灯に毛が生えた程度の明るさなのである。トンネル内の路
 面状況に気を使いながら慎重に進むこととする。


 トンネルに入ってすぐにコウモリの大群に遭遇。な 
にぶん天井も低く幅も狭いのでバイクや身体に当たる
確率も高い。更にこの日はジェットヘルを被っており、
ゴーグルもしてたが鼻から顎にかけては完全に無防備
であった。あんなのが口に入ったりしたらたまったも
んじゃない。 顔に当たりそうになり「ぎゃ〜〜っ!!」
と叫んでしまい、トンネル内で自分の声が凄い勢いで
木霊する。冷静に考えると端から見て聞いてた方が絶
対怖いはずである。
  なにはともあれ無事に通り抜けることができた。

  やはりこちら側の入口の方が雰囲気はある。朽ちかけた煉瓦に草が
 生えてなんともいえぬ趣を感じる。しかしこの写真でもかろうじて確
 認できるが向こう側の出口もちゃんと見えている。ここに来た時はま
 だ陽射しも爽やかな午前中であった。後から調べたところによると、
 時間帯や気象条件によってはこのトンネル、中から白い霧というか煙
 を噴きまくりらしい。向こう側の出口も見えるはずもなく、想像する
 にかなり気味が悪いはずである。R418の二股隧道でそんなことがあ
 ったが、あの時は何度も入るのを止めようとしたものである。
  今回の戸谷隧道ではそれがなかったのは、ある意味幸運だった反面、
 残念だったのかもしれない。ただ、この辺りは嫌にジメジメしている。
 トンネル内は蝙蝠の巣なのでおそらく路面にも糞が堆積しているので
 あろう。異臭がするのである。トンネルを抜けたところで持ってきた
 おにぎりとお茶で腹ごしらえをしようと思ったが、とてもじゃないが
 そんな気は失せてしまった。

  そして戸谷隧道を後にし、そのまま赤瀬ダムへ抜け
 ようとしてしばらく進むと工事車両が現れた。工事関
 係者の方が言うには通り抜けは不可能らしい。仕方が
 ないので来た道を引き返し、再び戸谷隧道へ突入。今
 度はコウモリが足にヒットし、またもやトンネル内に
 叫び声が木霊することとなった。赤瀬ダム側へ回って
 アプローチを試みたが、県道が途切れダートが始まる
 ところの広場に多くの工事車両が待機していた。どう
 やら戸谷隧道に至るこの道を本腰を入れて復旧するら
 しい。工事内容を確認するのを忘れたが、噂では完全
 舗装化になるとのことである。


 それにしてもこの戸谷隧道もそこへ至る道も手持ちのツーリングマップルの95年版にも03年版にも
載っていない。にも関わらず一度も道を間違えることなく辿り着けたのはやっぱり運がよかったといえ
る。ただやはり心残りなのは白い霧を噴きまくる戸谷隧道を見たかったことである。      

←戻る