ホハレ峠

 日本全国津々浦々の廃道についてネットなどでリサーチしているうちに特に意識はしていなかったが、
その存在を知るようになった超大物級の廃道である。その独特の名称が一度読んでからずっと頭から離
れずにいたのだ。しかしながら車両での通行は不可能と認識していたし、相当険しい山の奥深くにある
ものと思い込んでいたので、バイクなどで行ける代物ではないと決めつけていた。
 晩秋、季節はそろそろ冬支度の準備を始めようとする頃である。廃道について語り合う掲示板でにわ
かにホハレ峠の話題で盛り上がっていた。峠を越して通り抜けることは不可能らしいが、峠までは車両
で到達可能らしい。峠には長年雨ざらし雪ざらしでもとの姿がどんなだか解らない地蔵があるらしい。
新道と旧道がありどちらか片方はそこに道があったのかも解らない程自然に帰化しているらしい等。新
道と旧道の分岐、峠のお地蔵さん、この2つのキーワードでもう居ても立ってもいられなくなってきた。
 更にホハレ峠の位置であるが、琵琶湖北の滋賀県と岐阜県の県境付近であり京都からでも充分日帰り
圏内である。この頃、岐阜県飛騨地方にある実家へ帰る用事があったので、思いきってハンターで廃道
探索を兼ねて帰省することにした。

 琵琶湖北部に位置する木之本町よりR303に入るとど
んどん山深くなっていく。間もなくすれば滋賀県と岐阜 
県の県境、かの有名な八草峠である。言わずもがな酷道
であり難所としてその名を轟かせていたが、近年トンネ
ルが開通し、酷道は旧道となってしまった。
 ちなみに八草峠…旧道は越えたことがあるのだが、ト
ンネルを通過するのは今回が初めてある。それにしても
このR303の八草トンネル付近は幅員も狭く酷道マニア
にはたまらない道が続いているのだが、現在所々で橋が
架けられたりトンネルが掘られたりしていているのだ。
ゆくゆくは快適なハイアベレージ道路となるのであろう
が、こう手応えのある道が無くなっていくのを目の当た
りにして寂しくは思うのは私だけではないはずである。


  八草トンネルを抜けてしばらく走るとホハレ林道の分岐が現れる。
 なんと親切にも大きな地図まで立て掛けてくれているのだ。といっても、
 この地図、主に夜叉ヶ池や坂内バイクランドを案内するもので、ホハレ
 林道に関してはおまけ程度にしか書かれてなくしかも行止まりとある。
  さて、この分岐地点に辿り着いたのは午後3時半をまわったところで
 あった。日没まであまり時間がない。 既に遠くの空には赤みがかかって
 おり、いやがおうでも焦燥にかられることとなる。 ハンターカブのライ
 トは暗い。提灯並みである。このホハレ峠のような超大物級の廃道など
 で日没を迎えようものなら命が危ない。今回はテント等の寝具を一切持
 ってきていない。しかもここいら一帯には熊出没の看板も立っている。
 それでもホハレ峠のお地蔵さんを一目でいいから拝みたいという気持ち
 が勝っており、この時点では意気揚々と突入していった。


  ホハレ林道に入りどんどん標高を上げて行く。かなりの高さまで舗装 
されているのだが、やがて舗装が切れ画像右のような路面となる。道端の
薮が凄く轍がヌタヌタである。 今回ハンターのタイヤを純正のIRC FB3か
らDunlop universalに交換した。universalはFB3よりブロック目が詰まっ
ており見た目ではややオンロード向きに思えるが、今回ホハレ峠を走った
限りでは特に問題は無かった。このように人の背丈程の草に道が覆われて
るので熊が恐い。走行中は頻繁にクラクションを鳴らす。
 熊も恐いが日没も恐い。確実に陽は落ちてきており、先を急がねばなら
ない。さりとて慌てて運転操作を過って転倒したり崖に転落しないように
気を配らなければならないし、いよいよ日没が間近となったら速やかに引
き返す判断も下さなければならない。このような条件下だったので景色が
どんなだったか等、実は記憶が曖昧である。

  そしてこのような分岐地点に辿り着いた。この分岐こ
 そがホハレ峠の新道と旧道の分岐地点である。右側が新
 道で左側が旧道なのだが、このホハレ峠の特異な点は右
 側を行った新道が完膚なきまでに廃道と化しているので
 ある。この分岐からすぐに背丈以上あるススキに覆われ
 ており道が全く認識できなかった。 ここを訪れた時は道
 が続いてる方が新道と思っていたが、大きな間違いであ
 った。進路を左側、旧道へと取る。
 ちなみに新道は王子製紙の作業道のことを差し、昭和の
 時代にパルプ材を搬出する為の林道であったらしい。

 旧道に入ってから更に標高を稼ぎ、このように展望が 
開けてきた。路面状況は轍がヌタヌタの所、赤茶けた粘
土質の所、ごく普通の砂利道があったが概ね走り易い部
類であったと記憶している。とは言ってもこれは峠まで
の話であるのだが。今回の探索では四輪車でも通行可能
な範囲までしか行ってなく、この廃道が牙を向く深部ま
でには至っていない。この画像は峠方面より写したもの
であるが御覧の通りもう夕焼け小焼けである。そろそろ
引き返なければと思っていた時のことである。

  先程まで展望が開けていた道も再び草木に埋もれ始め
 る。ふと道端を見るとコンクリートの台の上に石が乗っ
 けてある。 ホームページなどに掲載されていた画像と同
 じものが目の前に佇んでいた。これこそがホハレ峠のお
 地蔵さんである。見つけた時には思わずあっと声をあげ
 てしまった。 感無量である。とりあえず今回の目標であ
 ったホハレ峠のお地蔵さんを拝むというのは達成できた。
 あとは時間が許す限り探索を続けることとする。

 とは言うもののさすがに日没 
まで時間が無くなってきた。ま
だまだ路面に関してはこの先問
題無く進めそうであるのだが、
今回の探索はこれまでとし、速
やかに撤収することとした。
 右の画像が今回の探索で進ん
だ地点とその先を写したもので
ある。次回探索では深部へと突
入してこの峠の真髄と恐ろしさ
をこの目で確かめたいと思う。

 再びR303との分岐点に辿り着いた頃には辺りは真っ暗になっていた。これが林道内だったらと思うとゾ
ッとする。この後、飛騨にある実家まで帰って行ったのだが、このような道草を食っていたので予想以上に
遅くなってしまった。家族の顰蹙をかったのは言うまでもない。
 年が明けて雪解けを待ち、改めてこの超大物級の廃道に挑みたいと思っている。


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